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単なる流行に飛びつくのではなく、戦略的に“データ駆動経営”を進める。 | DX解体新書 メルカリ編

2020年9月17日

レポート

今回から連載を始めるDX 解体新書。日本CTO協会で2019年12月に公開したDX Criteriaを活用していただいているCTOにインタビューをしながら、気づきや戦略への活用事例などを深堀りしていきます。第一回は株式会社メルカリのCTOであり、日本CTO協会の理事でもある名村さんをゲストにお呼びして、DX Criteriaの活用方法を伺ってみました。

インタビューイ 名村卓(Suguru Namura)
2004年株式会社サイバーエージェントに入社後、アメーバピグ、AWA、AbemaTVなどの新規サービスの立ち上げに従事。2016年7月、株式会社メルカリに参画。US版メルカリの開発を担当、2017年4月、執行役員CTOに就任。一般社団法人日本CTO協会理事。
インタビュア 広木 大地 ( Daichi Hiroki)
2008年に株式会社ミクシィに入社。同社メディア開発部長、開発部部長、サービス本部長執行役員を務めた後、2015年退社。株式会社レクターを創業。技術経営アドバイザリー。著書『エンジニアリング組織論への招待』がブクログ・ビジネス書大賞、翔泳社技術書大賞受賞。一般社団法人日本CTO協会ではDX Criteria担当理事を務める。

「習慣を定着させる」ことの重要性に気がついた

広木

DX Criteriaをやってみた感想は率直にどうでしたか?

(株式会社メルカリ執行役員CTO 名村さん)

名村さん(以下、敬称略)

記入自体は公開された直後(半年くらい前)でした。レビュー時にも見させてもらっていましたが、自社の状況を記入してみて「DX Criteriaは本当によくできているな」というのが率直な感想でした。

この手のものって大体、項目が先進的でなかったり抽象的だったりするので、あまり役に立たないというイメージを持っていました。ですが、DX Criteriaはちゃんと時代にあっていて参考にできるし、整っている。これからちょうどやりたいなぁと思っていることも書いてあった。だから、気づきもすごく多かったですね。

広木

早速嬉しいことを言ってもらいました(笑)。気づいたことは、どんなことがあったんですか?

名村

全体を通して気がついたこととしては、メルカリは、いい意味でフットワークが軽く、流行に飛びつくのが早いんです。なので、「とりあえずやってみた」ということが多く、その辺りは高い点数が出たと思います。しかし一方で、「継続的にできていること」は少ないのではないかという気づきがあり、定着させていくことの大事さというか、危機感を感じることができました。

また、いろいろやってみる文化があるのはいいところなんだけど、手を出しすぎていて、戦略的に順序立ててできているかというところにも課題がありそうだなと思いました。

ただ、DX Criteriaの結果を見て、すべての点数を上げるぞという必要はなく、定着させたいポイントを絞ったり、順番を考えていくことに活かすのが大事だなと感じました。

たとえば、メルカリでは、大きなテーマでいうと「データ駆動」を重視したい。

(メルカリのDX Criteria結果から抜粋。項目:「データ」)

全体のデータパイプライン、データの流れを汲んでいくところの整備はまだ弱いと思っています。また、これは経営陣ともよく話していることなのですが、経営的な意思決定をもっとデータドリブンにしたい。それにあたって、今以上に必要な情報が増えていく。その実現の仕方を考えていく必要があります。

たとえば、私は「データの可視化」はすごく重要だと思っていて、データは取れているけどその可視化にエネルギーが割けていない会社は多いように思います。よくできたデータの可視化は、施策結果がすぐ反映されることがわかったり、それだけで組織のモチベーションに繋がることがあると思っています。

また、データ駆動のところでDX Criteriaが素晴らしいと思ったのは、機械学習の活用にも話が及んでいるところですね。メルカリでも機械学習の知見をプロダクトに活かしていく施策は、多数実施しています。それをさらに加速してくための基盤づくりを行っている最中です。

たとえば、ログのフォーマットを統一して扱いやすいものにしていくとか、エンジニアがニアリアルタイムにデータを取得・活用できるとか、データの扱いやすさや品質を上げていくことに力を入れていて、やっと最近スタートラインに立てたと思っています。

広木

「データ駆動」の項目は、成長した事業会社で対応するのは難しいところもあると思うのですが、かなり高得点ですね。力を入れている証拠だと思います。

名村

メルカリというシステムは、従来のWebサービスのつくり方で始まって、最近モダンな要素を取り込んできたため、新旧のシステムが併存しています。今、データ駆動の点数は高く出ているけど、自分たちはまだまだ成長できると思っています。

創業者の方針がカルチャーとして根付いている強さ

広木 

DX Criteriaの点数を見ていって、CTOとして感じた「自社の強み」はどこでしたか?

名村

チームの点数の高さは会社としても、とても気をつけているポイントなので、強みかなと思っています。これは、創業者の山田進太郎さんの方針でもあるんですが、「できる人にできることをどんどん任せていく」ボトムアップのカルチャーがあってそこが根付いているのが大きいと思います。

(メルカリのDX Criteria結果から抜粋。項目:「チーム」)

名村

たとえば、「心理的安全性」はすごく意識しています。Google などがチームのパフォーマンスに大事だと発信していますが、自分たちもすごく共感し、実感しています。全社で集まるオールハンズときも、メンバーから経営陣や執行役員陣まで自由に「言わせ過ぎなんじゃないか」って思うくらいに、どんどん忖度なく発言してもらえている。

従業員エンゲージメントの調査も自分たちで定期的に行っているし、1on1もちゃんとやるようにしています。不満・不安の可視化をちゃんとしたいので、匿名での調査をしています。

最近は、Work from Homeになったので、マネージャとちゃんとコミュニケーションが取れているかなども気にして確認を取ったのですが、結果としては心配のしすぎだったというくらいリモートでの仕事も上手く進んでいます。

広木

チームだけでなく、システムの項目も全体的に点数が高いですね。強化していきたいところはありますか?

(メルカリのDX Criteria結果から抜粋。項目:「システム」)

名村

疎結合アーキテクチャなどの項目はここ数年、マイクロサービス化をはじめ、力を入れてきた項目でした。API駆動開発についてもまだ手を付けられないところがありますが、ようやく戦略も固まってきました。DX Criteriaに回答した半年前は、まだ議論中の項目もありましたが、今ではもっとできていると思います。

これから力を入れていきたいのは、アプリリリース時の品質チェックなどで、人があまり必要ない状態になるように品質管理を仕組み化したいです。

メルカリがリリースされた当初が少し前の時代なのもあって、手を付けづらかったものもありますが、現在であればもう少しマニュアルのチェックを減らして、自動化できる余地が多いと思っています。

広木

「顧客体験」の項目も、点数がとても高いですね。これも当初から力を入れてきたところなんですか?

(メルカリのDX Criteria結果から抜粋。項目:「デザイン」)

名村

 Customer Service (CS)チームがJP Product Divisionよりもいち早くデータを計測してやってきていました。まさに初期から重点的に投資をしてきたポイントですね。 Customer Service (CS)対応は昔からの強みでした。お客さまのお問い合わせや課題解決までのリードタイムなどをちゃんと見ていました。ですが、さらに効果的にやろうとなってきたのはここ数年で、お客さまの継続的な分析がようやくできるようになってきました。

だからこそ「デザイン思考」の項目についてはとても気にしています。「データ駆動」の部分に重心が寄りすぎると見た目の良さを重視するよりも、「押す人が増えるから大きなボタンにする」というように短絡的な決断が増えてしまいます。

全体を通したUXが損なわれないようにするためのデザインシステムが、日本だと軽視されているように感じています。たとえば、デザイナーといえば、「ロジカルな考え方をしない」「直感的」というようなイメージが強いのですが、近年のデザインは合理的なものが好まれますし、Apple や Googleのデザインガイドラインを見ても、極めて合理的にデザインやUIにアプローチしていますよね。

「データ駆動」と「デザイン思考」を縦断したバランスというか、合理性がプロダクトには必要だと考えていて、このあたりに興味を持っています。

広木

コーポレートの結果についてはどのように感じましたか?

(メルカリのDX Criteria結果から抜粋。項目:「コーポレート」)

名村

「開発者環境」については常に周りのエンジニアの意見を聞き、取り入れていくことを重視していますね。最近だと、ニューノーマルの働き方を作っていこうという動きをしていく中で、オープンドアな時間や場所を用意して、幅広く意見を集めるようにしています。これはもうカルチャーとして定着していることですね。なんというか、「従業員が望んでいることを模索していく」という文化です。

今年の2月くらいから全社でリモートワークを導入していて、新型コロナウイルスの状況については経営陣全体で働き方やモチベーションなどについて、センシティブに状況を見ていました。

ですが、全体としてとてもスムーズに移行することができ、想像以上にフィットしていて不満も出ていません。どちらかというと生産性も上がっているようなところも多々あって、オフィスについて今後をどうするかという議論も出てきています。

これは、もともと比較的自由度が高い環境だったのもあって上手くいった気がしています。決め事が増えたということも、あまりありません。

IT企業じゃなくても、一度やってみたほうがいい

広木

「こういった企業や組織はDX Criteriaをやってみるべき」とか、「こんな風に使ったほうがよい」とかありますか?

名村

新型コロナウイルスによる環境変化などで、DXを進めないといけない会社が増えたように思います。何から手をつければいいかわからない会社は、DX Criteriaによる自己診断を一回やって、自社の弱いところを知るべきかなと。自分の立ち位置がわかるのがいいですよね。

しかも、アセスメントするにはそれなりの理解を持った社員が必要ですよね。できないケースでは外部コンサル会社に頼めるといいんでしょうかね。IT系以外の会社もぜひやるべきだと思います。

DXってそもそも何?と思う会社は沢山あると思います。そういう会社こそ、DX Criteriaなどの指標をどんどん試すべきかなと思います。IT系企業にとっても、ライバル企業との差が見えると本当はいいですね。

DX Criteriaを使ってどう戦略的にDXを進めるべきかを業界別にパターン化して広木さんが本を書くといいんじゃないですか?DX Criteriaは1つのゴールを確実に示しいますが、どんなルートを通っていくのがいいかは企業毎に異なると思います。

DX Criteriaの点数が全部満点になったら、「素晴らしい会社」にきっとなるんですよね(笑)。

私が考える限り、メルカリがこれまでに、あるいはこれからやらないといけないポイントが明確になりました。

DXについては色々な意見や指標も飛び交っていますが、まずは一つ指標を決めて、しっかり定点観測をしていくべきかなと。力を入れる項目の点数がより上がっていくよう、メルカリもやっていきたいです。

(メルカリのDX Criteria結果)

日本CTO協会では、日本のDXに貢献するため、様々な企業のDX Criteriaを集計し、集計レポートを会員企業に向けて、作成・配布しています。ご興味のある方は法人会員向け申し込みフォームからお問い合わせください。

インタビュイー

株式会社メルカリ 執行役員CTO 名村卓

インタビュアー / 執筆担当

日本CTO協会 担当理事 広木大地

企画・運営・協力

株式会社サイカ 執行役員CTO 是澤 太志

日本CTO協会 竹谷真帆