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【世界のエンジニア給与トレンド2020】国内エンジニアの給与が丸見えになるサービスも

2020年12月15日

レポート


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グローバル化が進み、エンジニアの活躍の舞台も日本に留まらず世界へと目を向ける時代になってきたが、やはり気になるのは各国の給与事情。

今回は世界のエンジニアの給与トレンドと、特に給与が高いイメージのあるアメリカとの比較をCTO協会理事達も注目するStack Overflow Developer Surveyから中心に紹介していく。

目次

1. Stack Overflow Developer Survey – Salary(給与)

Stack Overflow Developer Survey – Salary(給与)

Stack Overflow Developer Surveyとは

世界中のプログラマー向けのQ&AサイトであるStack Overflowが、毎年実施している開発者へのアンケートをもとに回答を総括したものがStack Overflow Developer Surveyである。今回は、およそ65,000人からの回答を集めた2020年度版から、Salary(給与)に関する項目に注目する。このStack Overflow 2020 Developer Surveyは2020年2月に発表されており、新型コロナウイルスによる影響が反映されていないことを留意しておきたい。

Stack Overflow 2020 Developer Survey

エンジニアと一概に言っても、肩書きや働く国によって給与には大きな差がある。特にその他の国との差が顕著なのがアメリカである。そのアメリカと世界の役職別給与をまとめたものが今年度のStack Overflow Developer Surveyで発表された。

(「Stack Overflow 2020 Developer Survey」を元に作成)

世界全体とアメリカの給与を比較した時、同じ役職でも2倍近くの給与差となっている。この給与差が各国の物価の違いを考慮した上でも果たして有効なのか検証するためにEconomist社が発表しているThe Big Mac Indexを利用する。2020年7月1日の時点でアメリカでのビッグマック価格は5.71ドルとなっており、日本はドル換算で3.64ドルとなっている。このビッグマック価格の平均値を世界55カ国より集めたデータを元に計算すると、3.58ドルとなった。つまり、世界平均と比べると、アメリカのビッグマックの価格はおよそ1.6倍となっている。

ここで、世界とアメリカのエンジニア給与差に戻ると、給与には2倍近くの差があるものの、ビッグマック価格から見たアメリカと世界の物価の差はおよそ1.6倍のため、単純計算ではあるがこの給与差は有効であるということが分かる。

役職別で分析すると、Engineering Manager、SREエンジニア、DevOpsエンジニアの順で給与が高い。反対に、デザイナー(Designer)、モバイルデベロッパー(Developer, Mobile)、学術研究者(Academic researcher)はこのアンケートの中でも給与が特に低い。

またこのアンケート結果では、給与とプログラミング経験の関連性についても発表されている。

(画像引用:Stack Overflow 2020 Developer Survey)

給与と経験の関連性を見たとき、その役職の平均プログラミング経験年数が高いほど給与も高いという予想通りの結果が出た。ただし、いくつかの役職は例外となる。特に、SREエンジニア、DevOpsエンジニア、そしてデータエンジニアは同じ水準の経験を必要とする他の役職と比べても高い給与を得ている。この背景には、SREやDevOpsに求められる高い専門性と責任があると考えられる。SREとDevOpsは「ウェブサイトの円滑な運用などを担い、サイトに障害やダウンタイムを作らないことが求められている」(北野 2018)。ウェブサイトのダウンタイムは企業にとっても大きな痛手となり、1分間のダウンタイムで平均$5600の損失になるとも言われている(Lerner 2014)。このような責任の大きさから、同じ経験値が求められる役職の中でもSREとDevOpsは比較的高い給与を得ている理由の一つとして推測できる。

反対に、デザイナー、モバイル開発者、教育者は他の役職と比べてプログラミングの経験年数とは不釣り合いに低い給与となっている。この中でもモバイル開発者の給与が比較的低くなっている理由としてはFlutterの影響があると推測できる。Flutterとは、Googleによって2017年にリリースされたモバイルアプリケーションフレームワークで、言語はDartが使用されている。このFlutterで使用されるDartは、のちに紹介するエンジニアの使用言語別給与比較のグラフを見ると使用者の給与が比較的低いことがわかる。そのため、Dart使用者の給与がモバイルデベロッパー全体の給与レベルを下げていると考えられる。Flutterリリースの影響が加味される2018年から現在までのStack Overflow Developer Surveyを参照し、年々モバイルデベロッパーの給与レベルが下がっていることからも、Flutterのモバイルデベロッパーの給与に及ぼす影響が確認できる。

また、エンジニアの使用言語別に比較した場合、経験年数と給与に差が見られる。

(画像引用:Stack Overflow 2020 Developer Survey)

ほとんどの言語において経験年数と給与は正の相関関係にあるが、PythonとR言語ユーザーの中には外れ値となる高い給与を受け取っている例も見受けられる。これは二つの言語が高給取りのデータサイエンティストに使用されることが多いためだと考えられる。

2019年度版との比較

このStack Overflow Developer Surveyは2011年より毎年実施されており、今年度以前の結果と比較ができるようになっている。ここで前年度の2019年度版の平均年収を参照した場合、2020年度と同じく、エンジニアの収入はアメリカとその他の国では大きな差があることが分かる。

(「Stack Overflow 2019 Developer Survey」を元に作成)

また、2019年度の平均年収を今年度の数値と比較してみると、世界的にはほとんどの役職で平均年収が減少している。例外として、科学者と学術研究者の給与は昨年度と比べて増加している。給与の特に高い役職は2019年もEngineering Manager、SREエンジニア、DevOpsエンジニアとなっており、変化は見られない。

(「Stack Overflow 2019/2020 Developer Survey」を元に作成)

反対に、アメリカの場合、2019年度と2020年度の給与データを比べると、ほとんどの役職で給与が増加している。役職によっては前年度比およそ1万ドルも給与が上昇しており、アメリカではエンジニア全体として給与上昇のトレンドがあることが分かる。

(「Stack Overflow 2019/2020 Developer Survey」を元に作成)

アメリカの給与トレンド – The Pay Scale Index

このアメリカの給与トレンドを深掘りするために、PayScale社のThe Pay Scale Indexを紹介する。The Pay Scale Indexは北米地域向けの給与トレンド指標であり、都市、業種、企業規模、業界ごとの給与伸び率が見られる。この指標を見ると、IT業界では給与の伸び率が右肩上がりとなっており、米国全体の給与トレンドと同様に上昇傾向にあることが確認できる。これは購買力を考慮したReal Wage(実質賃金)のデータも同様で、2019年度と比べると上昇している。

(画像引用:The PayScale Index)
(画像引用:The PayScale Index)

Stack Overflow Developer SurveyとThe Pay Scale Indexの二つのデータから、世界とアメリカのエンジニア給与トレンドが逆行していると考察できるだろう。

日本の給与トレンド – Robert Walters 給与調査2020

ここまで世界とアメリカの給与トレンドをみてきたが、日本のエンジニアの給与トレンドに目を向けてみる。ここでは2020年1月に発行されたRobert Walters社の給与調査2020を参考にする。この給与調査は21年前から行われており、IT業界を含め様々な業界の採用・給与動向についての分析を提供している。発表されている調査では、銀行・証券・投信、それ以外の金融サービス、商工業、オンライン、ベンダー/コンサルティングに分かれている。

また、この調査で発表されている2020年の年俸はあくまで予測であることを留意しておきたい。

この表では、ほとんどの役職で2019年と比べて給与が上昇するという見通しが立てられている。Stack Overflowのアンケートによると世界的に給与は減少していたが、日本ではアメリカと同じくエンジニアの年俸が上昇していくのではないかと考えられる。

給与情報の透明化

project COMP

ここまで調査してきた筆者の実感として、給与情報は曖昧かつ断片的なものが多かった。しかし、給与は就職、転職、また人事評価においてとても重要な情報であり、個の時代がやってくると言われている中で自分の市場価値を理解するのには必要不可欠である。これはスキルや経験を他の人たちと比較しやすいエンジニアでは尚更ではないだろうか。ここで注目したいサービスが、日本の給与市場の透明化を図るために最近立ち上げられたproject COMPである。このサービスでは、給与のデータベースをクラウドソーシングによって作ることで、自分のスキルや経験の市場価値を確認できる。現段階ではproject COMPの公開データはエンジニア向けのみとなっており、企業、社会人歴、職種、スキルごとの給与統計情報が分かる。また、登録すると、各統計情報の中で自身の給与順位も見ることができる。

(画像引用:project COMP for Engineers β版)
(画像引用:project COMP for Engineers β版)

OpenSalary

同じように、エンジニアの給与の透明化を目的としたクラウドソースサービスがOpenSalaryである。このサービスはメルカリのテクニカルプロダクトマネージャーのDrew Terry氏が開発し、2020年11月の時点で416名からのべ107社の給与情報が共有されている。

project COMPとOpenSalaryの主な相違点は、前者が企業・社会人歴・職種・スキルなどの項目ごとの統計情報を登録数に応じて順次公開しているのに対し、後者は登録情報を匿名にした上で個人の給与情報が確認できるようになっている。

現段階では両サービスにおいて回答者の多い企業に偏りがあるものの、今後回答者が増えていけば情報の精度も高まると思われる。たとえ転職活動中でなくとも、自身のキャリアプランを考えるきっかけとしてproject COMPやOpenSalaryのようなサービスを利用してみてはどうだろうか。

最後に

以上のデータから、アメリカと世界のエンジニア給与トレンドが逆行している実態が見られた。世界的には平均給与は減少している一方で、アメリカでは平均給与が上昇しており、日本でもエンジニアの平均給与は増加していくという見通しとなっている。しかし、今回取り上げた給与調査は新型コロナウイルスの影響が出る前に発表されているため、今後の統計情報ではその影響が大きく反映されると思われる。また、最近はproject COMPやOpenSalaryのようなサービスも生まれ、給与情報の透明化も今後進んでいくだろう。

引用文献

Lerner, Andrew. 2014 The Cost of Downtime. Gartner. https://blogs.gartner.com/andrew-lerner/2014/07/16/the-cost-of-downtime/, accessed September 7, 2020.

OpenSalary. https://opensalary.jp/ , accessed November 16, 2020.

PayScale. The Pay Scale Index – Trends in Compensation. PayScale. https://www.payscale.com/payscale-index/job-categories/information-technology-jobs , accessed October 24, 2020.

project COMP for Engineers β版 https://project-comp.com/ , accessed November 5, 2020.

Robert Walters. 給与調査2020日本. Robert Walters. https://www.robertwalters.co.jp/content/dam/robert-walters/country/japan/files/salary-survey/20_JAPAN_Jpn.pdf , accessed November 6, 2020.

Stack Overflow. 2020 Stack Overflow 2020 Developer Survey. Stack Overflow. https://insights.stackoverflow.com/survey/2020#salary, accessed September 7, 2020.

Stack Overflow. 2019 Stack Overflow 2020 Developer Survey. Stack Overflow. https://insights.stackoverflow.com/survey/2019#salary, accessed September 7, 2020.

The Economist. The Big Mac Index. The Economist. https://www.economist.com/news/2020/07/15/the-big-mac-index, accessed November 16, 2020.

北野勝久. 2018 SREって何? これまでのシステム運用やDevOpsとは何が違うの?|Code Zine.https://codezine.jp/article/detail/11002, accessed September 7, 2020.

執筆担当者

日本CTO協会 齋藤丈

日本CTO協会

担当理事 名村卓(株式会社メルカリ 執行役員)

PM 松下清隆

竹谷真帆


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